「生活保護を申請したい。でも、親や兄弟に連絡がいくなら、申請できない」——そう思って、ためらっていませんか。とくに、元配偶者の暴力から逃れてきた方や、長く家族と距離を置いてきた方にとって、扶養照会は、申請をあきらめる一番の理由になっています。
でも、知っておいてほしいことがあります。扶養照会は、生活保護を受けるための「条件」ではありません。そして、令和3年に国の運用が見直され、照会をしなくてよいケースが、はっきり示されました。
💡 この記事の結論
- 扶養照会は「保護の要件」ではない。親族が援助を断っても、保護は受けられる
- 照会は、「扶養が期待できる」と判断された親族にだけ行われる。全員に連絡がいくわけではない
- DVや虐待から逃れてきた場合は、照会を控える(夫婦・中学3年以下の子の親でも控える)
- 10年程度 音信不通なら、それだけで「交流が断絶している」と判断してよい(以前は20年だった)
- 大切なのは、窓口で事情を具体的に伝えること。黙っていると、照会される可能性がある
扶養照会とは?|親族に「援助できますか」と尋ねる手続き
扶養照会とは、生活保護を申請したときに、福祉事務所が扶養義務者(親族)に「援助できますか」と問い合わせる手続きのことです。多くは書面で行われます。
扶養義務者の範囲は、民法で決まっています。
| 区分 | 誰が当てはまるか | 扶養の重さ |
|---|---|---|
| 生活保持義務関係 | 夫婦(配偶者)、親と中学3年以下の子 | 自分と同じ生活水準を保たせる、重い義務 |
| 生活扶助義務関係 | 上記以外の親・子・兄弟姉妹 | 自分の生活に余裕がある範囲で助ける、軽い義務 |
| それ以外の親族 | 三親等内の親族(おじ・おば等) | 家庭裁判所が特別な事情を認めたときのみ |
ひとり親のケースでは、実の親、成人した子ども、兄弟姉妹が対象になることが多く、「親に知られたくない」という不安につながっています。
いちばん大事なこと|扶養照会は「保護の条件」ではない
ここが、いちばん誤解されている点です。
✅ 国が明記していること
生活保護法第4条第2項では、扶養は「保護に優先して行われる」と定められています。これは「保護の要件」とは別の位置づけです。
つまり——扶養義務者が援助できるかどうかは、保護を受けられるかどうかの判定に影響しません。実際にお金の援助があったときに、その分を収入として扱う、という意味にすぎません。
「親が援助を断ったら保護を受けられない」「親に連絡がつかないと申請できない」というのは、誤りです。安心して相談に行ってください。
照会されない人|国が示した3つの類型
福祉事務所は、いきなり親族へ連絡するわけではありません。①扶養義務者がいるかの確認 → ②援助できる可能性の調査 → ③照会、という順に進み、③の照会は「扶養が期待できる」と判断された人にだけ行われます。
国は、照会をしなくてよい「扶養義務履行が期待できない者」として、次の3つを示しています。
| 類型 | 具体的にどんな人か |
|---|---|
| ① 援助する力がない人 | 生活保護を受けている人/施設に入所している人/長期入院中の人/主な稼ぎ手でない人(専業主婦・主夫など)/未成年者/おおむね70歳以上の高齢者 |
| ② 関係が著しく悪い人 | その親族に借金を重ねている/相続をめぐって対立している/縁を切られている +10年程度 音信不通など、交流が途絶えている場合 |
| ③ 照会すると自立を妨げる人 | 夫の暴力から逃れてきた母子/虐待などの経緯がある相手 |
なお、この3つはあくまで例示です。これに直接当てはまらなくても、同じくらいの事情があると判断できれば、照会しない扱いにしてよいと国は示しています。自分のケースが当てはまるか迷っても、まず窓口で話してみてください。
DV・虐待から逃れてきた場合|照会は控えられる
⚠️ ここは必ず窓口で伝えてください
暴力や虐待から逃れてきた場合、扶養照会は控えることになっています。しかも、通常なら必ず照会する「生活保持義務関係」(夫婦、中学3年以下の子の親)であっても、控えると国は明記しています。
ただし、この場合も、申し出の内容を確かめるために、関係先調査(関係機関への確認)が行われることがあります。その際、国は次のように指示しています。
調査していることや、あなたの居住地、その手がかりになる情報(福祉事務所の名前など)が、相手本人に知られることのないよう、特に慎重に調査すること。
つまり、相手に居場所が伝わらないように配慮することが、国のルールとして決まっています。不安な場合は、「居場所を知られたくない」とはっきり伝えてください。
10年 音信不通なら|令和3年に基準が変わった
以前は「20年間音信不通」でなければ認められにくい運用でした。これが令和3年2月の見直しで変わりました。
| 項目 | 見直し前 | 見直し後(令和3年〜) |
|---|---|---|
| 音信不通の目安 | 20年間 | 10年程度 |
| 他の事情との関係 | 音信不通が中心 | 10年程度なら、他の事情を問わず交流断絶と判断してよい |
| 期間がはっきりしない場合 | —— | 「それくらい音信不通」という申し出があり、それを否定する明確な根拠がなければ、該当と判断して差し支えない |
最後の一行は、とても大切です。正確な年数を証明する必要はありません。「もう10年以上、連絡を取っていません」と伝えれば足りる、という趣旨です。
また、音信不通でなくても、借金・相続争い・縁を切られたなど「著しい関係不良」があれば、同じように照会しない扱いにできます。
窓口での伝え方|黙っていると照会されます
いちばん大事なのは、事情を自分から具体的に話すことです。福祉事務所は、申請者から聞き取った内容をもとに判断します。黙っていると「普通の親族」として照会されてしまいます。
✅ 伝えるとよいこと(当てはまるものを具体的に)
- いつから連絡を取っていないか(「◯年ごろから一度も」)
- なぜ距離を置いているのか(暴力、暴言、金銭トラブル、相続争いなど)
- 連絡がいくと、自分や子どもにどんな不利益があるか
- 相手の年齢・暮らしぶり(70歳以上、年金のみ、生活保護受給中など)
- 居場所を知られたくないこと(DV・虐待のケースは必ず)
※ 話しづらいときは、紙に書いて渡しても構いません。一人で行くのがつらければ、支援団体の同行を頼む方法もあります。
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扶養照会がどのタイミングで出てくるのかを知っておくと、心の準備ができます。
| 段階 | 何が行われるか | 扶養照会との関係 |
|---|---|---|
| 1. 相談 | 福祉事務所の窓口で、暮らしの状況を話す | この段階で事情を伝えておくのが大切 |
| 2. 申請 | 申請書を提出する(窓口で求めれば受け取れます) | 扶養照会の可否は、保護の要件ではない |
| 3. 調査 | 収入・資産・就労の可能性などを確認。扶養義務者の存否と可能性を調査 | ここで、照会するかどうかが判断される |
| 4. 決定 | 原則14日以内(最長30日)に、保護するかどうかが通知される | 親族の回答を待って決定が遅れるものではない |
大切なのは、3の段階に入る前、つまり相談・申請のときに事情を話しておくことです。あとから伝えるより、ずっとスムーズです。
一人で行くのがつらいとき|頼れる窓口
窓口で事情を話すのは、思い出したくないことを言葉にする作業でもあります。しんどいときは、一人で抱えなくて大丈夫です。
| 相談先 | できること | 費用 |
|---|---|---|
| 福祉事務所(自治体の生活支援担当課) | 生活保護の相談・申請の窓口 | 無料 |
| 法テラス | 制度の説明、弁護士・司法書士の紹介。DVの相談にも対応 | 無料(収入要件あり) |
| 自立相談支援機関 | 生活困窮者自立支援制度の窓口。家計や住まいの相談も | 無料 |
| 配偶者暴力相談支援センター | DVの相談、安全確保、同行支援 | 無料 |
| 生活困窮者を支援する民間団体 | 窓口への同行、申請の付き添い | 多くは無料 |
とくに、窓口へ一緒に行ってくれる支援団体があります。「一人だとうまく説明できる自信がない」というときは、こうした団体に先に相談してみてください。
もし照会されたら|親族には何が届く?
照会が行われる場合も、全員に同じ対応をするわけではありません。
重点的に調べる相手
(配偶者、扶養が期待できる親子など)
管内に住んでいれば直接訪ねるなど、重点的に調査
それ以外の扶養義務者
文書による照会など、必要最小限
届く書面は、多くの場合「援助できる金額はありますか」「どの程度なら可能ですか」を尋ねる内容です。回答に強制力はなく、「できません」と答えても、あなたの保護には影響しません。
よくある質問
Q. 親に連絡しないでほしいと言えば、必ず止めてもらえますか?
A. 「言えば必ず」ではありません。福祉事務所が、事情を聞いたうえで判断します。ただし、上の3類型に当てはまる事情があれば、照会しない扱いにできると国が示しています。当てはまる事情を、具体的に伝えることが大切です。
Q. 断られたら、どうすればいいですか?
A. 「なぜ照会が必要なのか」を確認し、もう一度事情を説明してください。それでも納得できない場合は、自治体の生活保護担当課、法テラス、生活困窮者を支援する団体に相談する方法があります。相談は無料です。
Q. 子どもに連絡がいきますか?
A. 成人した子どもは扶養義務者にあたるため、対象になり得ます。ただし、学生や収入が少ない場合は「援助する力がない人」として、照会されないことが多いです。
Q. 扶養照会を理由に、申請を断られました
A. 扶養照会は保護の要件ではないため、それを理由に申請を受け付けないのは適切ではありません。申請の意思をはっきり伝えてください。申請書は、窓口で求めれば受け取れます。
まとめ|不安なら、まず正直に話してみてください
扶養照会は、生活保護をあきらめる理由として、いちばん多く挙げられてきました。でも実際には、照会は「保護の条件」ではなく、事情があれば控えられるものです。令和3年の見直しで、その範囲ははっきり広がりました。
暴力から逃れてきた方、長く家族と距離を置いてきた方。あなたの事情は、制度の中にきちんと位置づけられています。窓口で、具体的に話してみてください。
📎 公式の情報(一次情報)
- 厚生労働省「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(令和3年2月26日 事務連絡・PDF)
- 厚生労働省「生活保護制度」(制度の概要・相談窓口)
※ 本文の内容は上記の公式資料をもとに確認しています(2026年10月現在)。実際の判断は、お住まいの福祉事務所が個別に行います。
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この記事を書いた人:masako
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